Monologue on a Fine Day 

"Unitary confusion"

 渡米した日本人が慣れないものの一つに『単位』がある。長さは『inch』と『feet』、距離になると『yard』と『mile』。重さは『ounce』と『pound』。容量もガソリンなどは『gallon』、ビールなどは『pint』と『quart』。面積は『square feet』もしくは『acre』となる。つまりどこにも我々になじみの『meter』や『gram』がないのである。したがって、身長は5 feet, 5 inchだし、体重も145 poundとしないと通じない。人からぱっと言われて、なじみがない分、感覚で理解するのに時間がかかってしまう。「400poundの巨体」と言われても、単位をkgに換算して『181kg』としないと驚けなかったりするわけである。秤売りしている海老やポテトサラダを買うときにもうっかりすると、3人でも食べられない分を買うはめになる。2年もいると、さすがにある程度は慣れるが、それでもまだとっさのイメージまでわかない。この前も5,000acreの土地を所有している人の話になって、『5,000acre=20km2=4.5km平方=ほう!すごい!』となるのに、電卓と単位表と3分が必要だった。なんでこんなに複雑な単位体系をとっているのか不思議だが、単一民族国家である我々にはわからない事情があるのだろう。<あまり深くは考察しない(^^;。
 この複雑な単位系、外国人(アメリカにとって)だけでなく、学科で『meter』や『gram』を使わなければならない高校以上の学生にとってもやっかいな問題となる。その結果、『1inchは何cm?』に答えられない大学2年生まででてくるし、一般社会である床屋でも『1cm切って』と言おうものなら『1inch』切られそうになる。周りの何人かに確かめてみたが、どうやら中学高校の課程で単位変換を訓練されていないらしい。自分の経験だけではあるが、小学生のとき単位変換についてはずいぶんやらされたような気がするが、、(さすがに尺貫や坪まではやらなかったけど)。実害がなければさほど問題もないのだが、サイエンスを学ぶはずの大学においては大いに実害となる。たとえば、先日こんなことがあった。微量薬物の分析のために、学内に分析依頼をしているラボメイトが『データがおかしい』と言って来た。聞くと、依頼したサンプルの大小関係はあっているものの、絶対値がおかしいのだと言う。このテの分析の場合、既知量のサンプル(スタンダード)を分析して、その比例関係から分析サンプル中の薬物量を計算するのだが、その値が彼女の期待値と一桁違うのだと言う。聞けば標準サンプルは機器担当者が調製している、とのこと。ダミーの既知サンプルを入れて再分析を依頼すると、案の定ダミーの既知サンプルを基準に計算すると期待値とほぼ一致した。なんてことはない、機器担当者の標準サンプル調製での計算ミスである。その計算、g/dL表示の市販サンプルを希釈してmcg/mLにする必要があったのだ。『分析担当者と言えどもその計算力は信じるなかれ』という教訓を残したが、それで金をとっているんだろが、、とあやうく言ってしまいそうになった。ともかく、最近ではアメリカ人の計算はあてにしないようになってしまった。こんなことではいけないのだが、特に実害がある場合はしかたなかろう。
 ところで、アメリカで普通とされる単位からのイメージ、、の件であるが、これまた先日ラボメイトとその友人が話しているとき、ついこんな失敗をやらかした。その友人(女性)、どうやら近頃ダイエットに成功したらしい。『40poundも落としたのよ!』と自慢げに話している。『すごいわよね』とラボメイトも自分に相槌を求めた。『40pound』がとっさにイメージつかなかった自分、あわてて計算して、『へえ、スーパーで売っているじゃがいもの袋3つ分も、、』とうっかり言ってしまった。その女性が素直に喜ばなかったことは言うまでもない。

(October 4, 1998)
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